新潟に子ども病院が必要なわけ       トップページに戻る

大きな病院が幾つもあるのに、なぜ子ども病院が必要なのでしょうか

 新潟に子ども病院が必要な理由の一つが、レントゲンやMRI、CTスキャナーなどが本来大人用に作られているためです。小さな子どもは検査機械の台に昇ることが難しかったり、乳幼児なら検査の最中に動いてしまったりします。
 でも、MRIを経験した方なら分かるのですが、身体を20分程度静止していないと検査ができないのです。このため、子どもの検査に対して教育を受けた方が子供用の検査機械で検査することが必要になるのです。
 小児用新型MRI装置「Multiva」(マルチバ) へのリンク
 レントゲンやCTでは放射線の被ばくを受けますが、成長期の子どもにとっては以下のページのように、検査による他の病気の誘発という危険性を孕んでいるのです。
  小児画像診断にかかわる医療従事者に伝えたいこと へのリンク
 しかも一般の病院に勤務する検査技師は、小児の検査に対して十分な教育を受けていない場合もあるのです。小児用のCTポジショニングセットや小児用のMRI装置を知らない医療関係者も多いのです。
 これは当然のことで、一般の病院では成人を対象とした医療が中心で、それだけで手いっぱいなのが現状ですから医療関係者を責めることはできません。
 高度な医療や検査こそ小児に特化した環境が必要なのです


地域医療の向上にも貢献できます
 地域医療として考えれば、個々の市町村ごとに医師を確保するのがベストです。しかし、各地に分散した小児科では、高度な先進医療を導入することは困難となります。
 地域医療をサポートする主役は開業医です。身近なお医者さんがいるからこそ、地域で安心して暮らしていけます。  しかし、多くの開業医の方が専門的な治療に対処することは困難で、最新の検査機器の情報などが届かない場合が多く、どの様な検査をすればよいのか判断できない場合も少なくありません。少子化の現状では、地域の中核となる大きな病院であっても、小児の専門的な検査に対応できないのが現状です。
 成人の場合でも年に1〜2件の患者のために、先進医療の準備をしている病院はありません。子どもについてはなおさら確立が少ないのですが、逆に少ないからこそ深刻な場合が多いのです。 地域の小児科の後ろ盾となる子ども病院があれば、先端技術を応用した検査機器と優秀なスタッフを揃えることが可能で、地域小児医療の大きな後ろ盾になります。
 さらに、専門的な技術を習得する若手医師や医療技術者を育てることが可能で、県全体の医療レベルの向上を図ることが可能です。
 それは、結果的に地域医療を支える小児医療の連携体制が確立へと繋がっていきます。


医師不足対策と医療コスト削減対策として
 全国的に医師不足が叫ばれています。特に産科医と小児科医の不足は深刻で、以下のページでその理由などが紹介されています
  医師不足の現状と医学部生のリンク
 実は医師不足と言われながら過去20年間のデータを見ると医師の数は33%も増えているのですが、小児科と産婦人科だけが増えていないのです。これは、大病院においても小児科や産婦人科はお荷物のように扱われ、もともと本気で小児科の診療を充実させる気が無いためとも思われます。
 現在は、医療法の改正により総合病院としての要件は無いのですが、総合病院と言われるブランド維持のために形式的に小児科を開設している病院もあるのです。
 内科・外科・小児科など、どの診療科目においても、常勤の医師が何名いるかで、その病院の本気度がわかります。
 多くの病院では、担当医師名が「新大医師」のように表示されている場合は、アルバイトの医師でまかなっていると思われます。

 実は小児科・産婦人科以外の医師は増えている へのリンク
 この小児科医療の状況に対して、新潟大学医学部小児学教室の斉藤教授は強い危機感をお持ちで、「現在高度な医療を提供できる小児科医が力を発揮する場が少なく、新潟大学医学部の卒業生も県外に流出してしまう場合が多い。こども病院の設置で、医師や患者を集約できれば、小児医療の質が向上する。」と強調されています。  
 新潟市内だけでも、大きな病院が28あり、その多くが小児科の医師を抱えていますが、小児医療専門の検査機器等の施設や設備に関しては、満足できる状況にないのが現状です。
 地域毎の大きな病院全てに、高価な小児用の検査機器を配置することが望ましいのですが、それでは医療コストが上がってしまいます。
 子ども病院の一つの目的が地域の個々の病院に分散している小児科を集約することにより、勤務の効率化により医療従事者の激務の緩和を図り、不足している医師の穴を埋めることが可能となります。また、集約化により専門性や先進性を高めることができ、人材育成の環境を整備することも可能ですので、医師育成費用を含めた、医療費コストの削減につながります。
 具体的には、検査機器等を集約させることにより、個々の病院に機器を設置するより経済的になります。
 また、1病院に1〜2名程度の小児科医では夜勤もできない状況ですが、医師が1か所に集約されることにより、救急医療をはじめ医師の勤務体制を効率化させることが可能で、現在いる医師数でより多くの子供たちをサポートすることが可能となり、これから小児科医になる医学生にとっても最適な研修場所が確保されることにもなります。
 今まで、複数の病院をたらい回しにされ、その都度検査を行っていたのが現状ですが、1つの子ども病院で専門知識を有する小児科医が連携することにより、検査回数を大幅に減らし、治療期間を短縮することができますので、この様な面でも医療コストの削減につながります。
 小児科医や産婦人科医は医療行為の裏に訴訟という危険因子を孕んでいますので、そう簡単に医師は増えないのです。仮に医師を増やしても、人件費としての医療費が上がるだけでベストな解決方法にはつながりません。少子化の時代だからこそ、小児科医療を集約することで、医師不足対策と医療の効率化を図る必要があります。


青年の医療にも貢献できます
 先日、アルビレックス新潟の早川選手が急性白血病というショッキングなニュースが流れました。
 じつは、小児期から20代までの成長期に発病したがんは、成長を考慮した治療が必要とされており、30歳位までは小児がんの治療方法が効果的と言われています。
 この世代をAYA(アヤ)世代(Adolescent and Young Adult(思春期と若年成人))と言い、子ども病院の先進医療技術は、子どもだけではなくAYA世代の患者の治療にも大きく貢献できます。
 ところが、小児医療環境が十分でない地域においては、このような医療情報が末端まで届いていない場合があるのです。子ども病院は子どもだけではなく、青年のための病院でもあるのです。


子供用トイレや院内学級も必要です
  総合病院には小児科病棟がありますが、子供のためのトイレを用意しているところはあまりありません。健康なら多少我慢すればいいのですが、病気の子どもたちではそうもいきません。
  総合病院の小児科病棟では、親の付き添いを考慮した病室もないのが普通です。親が付き添いするとすると、コンクリートの床にマットを敷くなどして付き添わなくてはいけません。
  出生率が低下し、総合病院では子どもの数が減少し入院患者の数が減ってきているのですから、小児病棟の設備を改善することなく、小児病棟が閉鎖された話さえ聞こえてきます。
  動けない子どもばかりが入院しているわけではありません。安定期に入れば子どもは遊び回る環境も必要です。遊ぶ場所や保育施設が必要となってきます。
  長期の入院になれば、学業の問題も発生してきます。院内学級を開設し、子ども達の教育を受ける権利を確保することが必要です。
  特に将来の進路を選択する時期にある高校生の教育環境は、大きな改善が必要とされていますが、義務教育ではないという理由だけで、その権利は大きく阻害されています。


子どもにも家族にもメンタルサポートが必要
 成長期の子供たちの心は非常にデリケートです。治療が長引くとメンタルな問題が生じてきます。その子どもたちをケアする人たちも必要となのです。このメンタルケアは実は長期入院する親やその家族にとっても必要となります。
 母親が、長期間付き添いすると、入院している子の兄弟の養育は父親に重くのしかかり、ぞの重圧が大きな負担となります。母親との接触が絶たれた兄弟たちにも大きなストレスが押し寄せてきます。付き添いしている母親にも、目の前の病気の子どもに対する思いと、家庭に残してきた子どもに対する思いが重なり、重いストレスとなります。
 これらの重圧に耐えられなくなり、崩壊してしまう家庭も少なくありません。


生涯病気と付き合う子どもたちもいます
 一方で、様々な理由で重度な障がいを負う子ども達も増えてきています。心臓に障害のある子供たち、生まれながらにして酸素マスクが離せない子供たちなど、多様な難病を抱える子どもたちに、無理のない生活環境を提供し、その家族の生活を支える医療環境の整備も必要とされています。
 この子たちが地域の中で生活していくうえで、大きな障害となっているのが症状が急変した時のサポート体制です。
 地域の救急病院に搬送されても断られたり、十分な対応ができないのが現状です。しかし、カルテを有する子ども病院が地域の救急センターと連携し、救急時の対応方法について情報提供することにより、緊急時の応急処置を適切に施すことが可能となります。
 情報化の時代だからこそ、医療情報の中核となる施設の活用が求められています。


日本海側に小児医療の中核となる施設が必要
  医療機関の大半は太平洋側に集中しており、日本海側には子ども病院がひとつもありません。国も日本海側での子ども病院の必要性を認識しており、全国で15箇所指定された「小児がん拠点病院」の申請の際に、子ども病院が無いにも関わらず新潟県の申請を2次審査まで進ませました。
 しかし、国が求めている子ども病院の基準を満たした提案を提出できず、「小児がん拠点病院」には指定されませんでした。
 いま懸念されている南海トラフ地震のように、太平洋岸で大規模災害が発生した場合、日本の小児医療はその中核を失うことになります。そのような状況を想定した場合、日本海側での子ども病院は必須事項であり、子ども病院の整備に関する国の助成も受けやすいと考えられます。


今地域として考えなければならないこと。
  社会がいかにして子育てを支えるかは大きな問題であり、安心してこどもを産み育てられ、家庭の負担を考えた小児医療環境の提供が必要とされています。これらを総合的に考えると、やはり子ども専門の病院が必要となるのは当然のことで、子どもだけの問題ではなく、地域社会全体の問題として子ども病院の実現を目指す必要があります。